国や地方自治体から支給されるお金に補助金や助成金があります。補助金も助成金も、それぞれ支給の目的や支給の要件が定められており、それを守らないと返還しなければならないケースもあるため、利用する際は要注意です。

この記事では、補助金や助成金を返還しなければならないケースを詳しく解説します。補助金や助成金を申請予定の方は、ぜひ参考にしてください。

1 補助金・助成金とは

補助金・助成金とは

補助金・助成金は、国や地方自治体から支給される返還義務のない金銭をいいます。補助金・助成金には、それぞれの支給目的や支給要件が決められており、それを守らないと返還しなければなりません。

補助金と助成金は、どちらも国や地方自治体から支給される金銭です。補助金と助成金の違いは、主に予算面での違いとなります。補助金は、予算上支給予定件数や金額が定められているため、その範囲内での支給ということになります。すなわち、申請期限内に支給要件に適合した申請書が予算をオーバーして多数提出された場合、審査で評価が上位のものから予算の範囲内に限り支給され、評価が低いものは支給見送りとなります(追加予算措置を講じる場合もあり)。

一方、助成金は、支給要件に適合していれば、すべての申請に支給される可能性が高い制度です。

国の補助金は経済産業省主管のものが、助成金は厚生労働省所掌のものが比較的多くみられますが、管轄庁による厳密な区分は特にありません。

2 補助金・助成金の返還事由

補助金・助成金の返還事由

次に、補助金・助成金の返還事由を見ていきましょう。

2-1 目的外の使用

補助金返還事由の1つ目は、補助金を補助事業の本来目的とは異なる目的に使用することです。補助事業には、「何のために補助するか」という補助事業本来の目的が定められています。したがって、補助金を補助事業の本来目的と違う目的に使用すると、補助事業を行う意義が失われてしまうため、補助金を返還することになってしまいます。

例えば、XX県で、大型台風Z号で被災した家屋に対し、復旧のための補助金を支給しているとしましょう。この補助事業の目的は、地域住民が台風Z号で損傷した家屋を修繕することを支援することです。

Aさんは、台風被害がないにもかかわらず、経年劣化した屋根・外壁の破損箇所を修繕するために補助金を申請し交付を受けました。しかし、この補助金申請は、補助事業の本来目的から逸脱しているため、後で事実が明らかになった時点で補助金を返還しなければなりません。

2-2 交付要件不適合

2番目は、補助金の交付要件に当てはまらない場合です。補助事業には、それぞれ補助金交付のための要件が定められています。その補助金の交付要件を満たさないことが判明した場合は、補助金の返還となってしまいます。

上の例の台風で被災した家屋復旧の補助金で、「XX県内にある自己の居住家屋が被災したこと」という補助金交付要件があったとします。YY県に住むBさんは、XX県内に別荘を所有しており、今回補助対象となる台風Z号により建物が損壊しました。BさんはXX県内に居住していませんでしたが、急遽住民票をXX県内に移し、XX県内に居住しているように見せかけて補助金を申請し交付を受けました。

しかし、家屋が被災した時点でXX県内に居住していなかったので、Bさんの申請は補助金の交付要件を満たしていないことは明らかです。補助金の交付要件に該当しないことが判明した時点で、Bさんは補助金を返還することになります。

2-3 事業計画の不遵守

3つ目は、提出した事業計画を守らない場合です。補助事業では、申請者に事業計画を提出してもらい、それに基づき審査を行ってから補助金を交付します。したがって、審査に合格した事業計画を守らない場合は、補助金の返還事由となってしまいます。

例えば、ある地方自治体で、高齢者が居住する住宅のバリアフリー化工事を補助しているとします。Cさんは、自宅に高齢の母親が同居しているため、バリアフリー化工事を行うための見積書を業者から徴取しました。それによると、

  1. 屋内床段差解消工事80万円
  2. 浴室段差解消工事50万円
  3. 和風トイレの洋風切替え工事10万円
    合計140万円

という内容だったため、それに従って屋内床段差解消工事、浴室段差解消工事、和風トイレの洋風切替え工事の内容で事業計画書を提出し、補助金の交付を受けました。この補助事業の補助率は1/2で、自己負担額は、合計工事費140万円×1/2=70万円が必要です。

しかし、Cさんは、自己負担額を工面することが難しかったため、屋内床段差解消工事80万円を取り止め、浴室段差解消工事50万円と和風トイレの洋風切替え工事10万円の2工事のみを施工しました。

ただし、このように審査を通過した事業計画を後で勝手に変更してしまうと、補助金の返還事由に該当してしまいます。この例では、未施工の屋内床段差解消工事にかかる補助金である工事費80万円×補助率1/2=40万円は、返還しなければならなくなります。

2-4 事情の変更

4つ目は、補助金交付決定後の事情変更です。補助金の交付決定後に、自然、社会、経済的な事情変更により、補助事業を実施することが困難になった場合は、補助金を返還することになります。

上の、住宅バリアフリー化補助で、補助金交付決定後かつ工事施工前に、急遽Cさんの母親が死亡してしまった場合などは、補助事業を実施する必要性がなくなるため、交付決定の取消し、または補助金払込済みの場合は返還することになります。

2-5 取得財産の処分

5つ目は、取得財産の処分です。「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」第22条では、補助金を受ける者が補助事業等で取得した財産を処分することを制限しています。

すなわち、補助金を受ける者は、補助事業等により取得し、または効用の増加した財産を、補助事業を実施する行政庁の承認を受けずに、補助金交付の目的に反して使用、譲渡、交換、貸付、担保に供してはならないとされています。そのため、この規定に違反した場合、補助金を返還することになってしまいます。

3 返還を求められた場合の対応

返還を求められた場合の対応

次に、補助金・助成金の返還を求められた場合の対応を見ていきましょう。

3-1 返還事由を確認・説明する

補助金・助成金の返還を求められた場合は、第1にその返還事由を確認することが重要です。補助金を返還しなければならない理由が納得できない、すなわち、「自分は間違ったことは行っておらず、行政庁の誤解に違いない」と確信できれば、書類などを準備して行政庁の誤解を解くよう説明することが重要です。

3-2 返還は迅速に行う

補助金・助成金を返還しなければならない場合は、できるだけ迅速に行うことが大切です。

補助金の交付を取り消され返還を命じられた場合には、補助金受領の日から返還日までの日数に応じて、年10.95%の違約加算金が付加されます。

また、返還期限までに返還しなかった場合、返還期限の翌日から返還日までの日数に応じ、年10.95%の延滞金も加わってしまいます。このため、加算金や延滞金が増えてしまわないよう、返還は迅速に行う必要があります。

4 まとめ

補助金や助成金を返還しなければならないケース

補助金や助成金の返還事由には、①目的外の使用、②交付要件不適合、③事業計画の不遵守、④事情の変更、⑤取得財産の処分があります。

せっかく貰える補助金なので、返還事由に該当しないよう十分な注意を払うことも大切ですが。万が一返還事由に該当してしまった場合は、加算金や延滞金が増えないよう迅速に返還事務を進めることが大切です。