日本では、10年間続いた日銀による金融緩和政策の転換の流れがスタートし、事業者にとっては金利負担が重くなり利益の縮小や景気の悪化が懸念されています。このような状況では、国や政府からの支援を上手に活用することも有効で、事業者支援制度の一つが助成金や補助金です。

今回の記事では、助成金や補助金についての基本とその会計処理方法のポイントを紹介するので、参考にしてみてください。

1 助成金と補助金

助成金と補助金

助成金と補助金は、国や地方公共団体などからの支援制度であり、原則、返済不要です。助成金の財源は雇用保険料となり、厚生労働省が管轄しています。助成金を支給する主な目的は、景気悪化などから雇用や労働環境の整備を支援することです。財源が雇用保険になるため、労働保険の滞納などがあると支給を受けられません。

一方、補助金は税金が財源となり、経済産業省や地方自治体などが主に発布します。補助金の目的は、新規事業や創業の推進などの国策を促進することが主になります。コロナや急激なインフレなど社会の安定のために緊急性が高い変化への対応などにも活用されており、公募期間が短い点などが特徴になります。

2 助成金と補助金の会計処理

助成金と補助金の会計処理

法人や事業者が助成金や補助金を受け取った場合には、『収入』に該当します。収入は、自分の手元に入ってくる金銭や現物などです。給付金や交付金なども同様に収入に該当します。そのため、助成金や補助金は会計処理を行い、決算書に盛り込む必要があります。

会計処理は、収入(入ってくるお金)と支出(出て行くお金)の流れを帳簿に記録する作業です。事業者は、商品の販売やサービスを提供することで収入を得ます。また、収入を得るための材料の仕入れや生産性向上のための設備投資やスタッフの採用などを行います。これらの材料の仕入れや設備投資やスタッフに支払いする給与などが支出になります。

そして、会計処理によって作成されるのが財務諸表です。財務諸表は、企業の期中の収入と支出の動きや経営成績や財務状況を表すために作成されます。財務諸表には、利益状況を表す『損益計算書』や資産状況を表す『貸借対照表』と資金の流れを表す『キャッシュフロー計算書』などがあります。

財務諸表を作成するためには、共通のルールである『会計基準』があります。帳簿への記録は、定められた会計の基準に則って実施しますが、この定められた基準が『会計基準』です。

会計基準にはいくつかの種類がありますが、一般的な中小企業が採用している会計基準は『日本会計基準』になります。会計基準は、各国の経済慣習や歴史に応じた独自の基準を設けています。

助成金と補助金は、収入として会計処理では取り扱います。同じ収入でも、助成金や補助金の利用目的によって分類が異なってきます。助成金と補助金の分類は『経費補助金』と『施設補助金』に大きく分けられます。

経費補助金は、経費を補填する目的で使用される助成金や補助金になります。一方、施設補助金は設備投資などの固定資産購入などを目的として使用される助成金や補助金になります。

3 具体的な会計処理

具体的な会計処理

助成金と補助金は、本業の売上ではない収入になるので、勘定科目の仕訳は最終的には雑収入になります。一般的には、助成金や補助金は申請が受理されたのちに受給となります。また、申請の受理から受給までに一定の期間があります。場合によっては、決算期を跨いで受給するケースなどもあります。

そのため、会計処理としては受理された時点で『未収入金』として仕訳をします。その後、受給したタイミングで未収入金を消して『雑収入』として仕訳をする処理をします。

仕訳は以下のようになります。

例)50万円の助成金を申請、

Step1:助成金の支払が決定する書面を受け取った時点

借方 金額 貸方 金額
未収入金 50万円 雑収入 50万円

助成金の申請が受理されて、受給できることが分かった時点で雑収入と未収入金として仕訳処理を行います。

Step2:助成金の受給

借方 金額 貸方 金額
普通預金 50万円 未収入金 50万円

助成金50万円が振込されたので普通預金の現金が増え、未収入金が消えます。

3-1 助成金と補助金の税金

助成金と補助金には、消費税はかかりません。しかし、法人税は課税されるため、注意が必要なのは施設補助金への課税になります。

施設補助金は金額に応じて法人税額も大きくなります。そのため、単年度で見ると負担が大きくなりすぎる場合もあります。その単年度の負担を複数年度に分散する会計処理を『圧縮几帳』になります。

3-2 圧縮記帳と仕訳

圧縮記帳は、助成金などの臨時的に発生する収入への税金支払いの時期を助成金などを受け取った年度ではなく、次年度以降にズラす制度です。

圧縮記帳には、税金の支払い負担を分散できるメリットがあります。圧縮記帳の仕訳は、圧縮損という形で損失を計上することで補助金を受給した当期には税金が課税されないようにします。

仕訳は以下のようになります。

例)設備投資のための補助金50万円を受給し、100万円の設備投資を実施するケース。

Step1とStep2は、前述のケースと同じになります。

受給できることが確定した時点で雑収入の仕訳処理を行い、まだ受給していないため未収入金で処理します(Step1)。また、その後実際に受給したら、普通預金が増えて未収入金を消す処理をします(Step2)。

Step1:補助金の受給確定

借方 金額 貸方 金額
未収入金 50万円 雑収入 50万円

Step2:補助金の受給

借方 金額 貸方 金額
普通預金 50万円 未収入金 50万円

Step3:設備投資の実施(機械の購入)

借方 金額 貸方 金額
機械 100万円 普通預金 100万円

機械を購入することで、設備という資産を手に入れます。一方、現金で購入するため普通預金にあった100万円を支払いします。

Step4:圧縮損の計上

借方 金額 貸方 金額
圧縮額 50万円 機械 50万円

圧縮損の勘定科目で損失を計上します。なお、機械は対応年数に応じた減価償却費の計上を行います。減価償却処理をすることで、現金は一括で出ていきますが、支出の形状は複数年に分かれる形になります。

4 まとめ

助成金や補助金の会計処理

助成金や補助金を活用することで、事業運営や設備投資や雇用などに係る費用負担を軽減できます。公表されている助成金や補助金制度の内容を小まめにチェックし、利用できるものは条件などを確認して、期限内にできるだけ早く申請をして行くことが大切です。

また、助成金や補助金は受給したらそれで終わりではありません。会計処理のやり方を十分に理解し、法人税などの税金負担を分散するなど、負担が受給年度のみに集中しない対応も忘れずに実施しましょう。