『事業継続計画(BCP)』という取り組みをご存知でしょうか。企業が、自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合に、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、事業の中核部の維持・継続、あるいは早期復旧を可能とするための方法や手段を予め取り決めておく計画の事です。

ここでは、そういった“起こるかわからない災害”に備えて、各企業に合ったBCPを策定する方法や、実践のための準備に活用できる助成金を紹介していきます。

1:災害への備え

災害への備え

日本では過去10年間で震度4以上の地震が600回以上、土砂災害については約15,000件も発生しています。地球温暖化の影響もあり、台風や集中豪雨の発生が増加しており災害のリスクは年々高まっています。

こういった背景からも、大規模な災害による企業の活動への影響を最小限に抑えるために、『事業継続計画(BCP)』の策定が効果的です。

BCPを策定し、それを実践することで災害による直接的な経済損失を減らすことができ、国連で定められたSDGsのゴール11「住み続けられるまちづくりを」の実現にも繋がります。

2:BCPの必要性

BCPの必要性

災害の発生時には、電気・ガス・水道等のライフラインの途絶や、交通網の遮断による輸送能力の低下により取引先や従業員等の関係者との円滑なやり取りも難しくなります。

緊急的で大規模な災害時でも事業活動を可能な限り維持するためには、BCPを策定し、災害に備えて普段から行うべき活動や、緊急時に事業を継続するための方法等を取り決めておく必要があります。では具体的にどのような項目について策を講じていくべきなのか、具体例を見ていきましょう。

2.1災害時の事業継続

まずは、災害発生時に、優先して継続・復旧すべき中核事業と目標復旧時間を決めておく必要があります。

中核事業と復旧の目標を決めておくことで、会社の根幹となる部分を速やかに復旧し、関係者への影響を最小限にすることができます。

例えば、人員を集約させる事業拠点を決めておくことで企業としての機能を速やかに復旧させ、必要な材料の代替策を決めておくことで取引先への供給を継続させることが可能となります。

2.2経済的なダメージの最小化

災害による生産活動や関係者への影響が長引くと、売り上げが低下するだけでなく企業としての信用棄損にもつながりかねません。

同業他社に流れたお客様の信頼を取り戻すことは難しく、経営にも長期間の大きな影響を与えてしまいます。

自社の事業の速やかな復旧を関係者に知らせることで、経営へのダメージも最小限に抑え、信頼を獲得することも可能となるでしょう。

2.3実現可能なBCPの策定

BCPは会社の規模や事業内容に合わせて方針を定めて体制を確立する必要があり、専門的な知識や知見が必要になります。

折角策定したBCPが絵に描いた餅にならないために、行政が開いているBCP策定講座等を有効に活用するようにしましょう。

3:BCP実践促進助成金の概要

BCP実践促進助成金の概要

東京都では大規模災害時にも都市活動を停滞させないために、公益財団法人東京都中小企業振興公社(以下、公社)を通じて企業のBCP策定を支援する活動を行っています。

また、策定されたBCPの実効性を高める取組みには助成金を支給しています。BCPを実践するには対策用品の備蓄等に相応の費用がかかりますが、助成金の制度を最大限に活用することで導入費用を大幅に抑えることができます。

では早速、支援(助成)内容について見ていきましょう。

3.1対象となる企業

対象となる企業は東京都内で1年以上事業を営んでいる中小企業者や中小企業団体であり、次のいずれかにあてはまるBCPを策定する必要があります。

  • (1)公社が実施する「BCP策定支援事業」による支援を受けて策定したBCP(平成28年度以前に都が実施した支援事業等も対象)
  • (2)中小企業強靱化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定を受け、その内容に基づいて作成したBCP

3.2助成対象

対象となるBCPに基づく、以下のいずれかの設備投資等が助成の対象となります。

  1.  緊急時用の自家発電機や蓄電池
  2.  従業員等の安否確認を行うためのシステムやサービス
  3.  データのバックアップ専用のサーバ(NAS)やクラウドサービスの導入
  4.  地震対策(制震・免震ラックへの買替え、飛散防止フィルム、転倒防止装置の設置等)
  5.  緊急時用の従業員の非常食、簡易トイレ、毛布、小型簡易浄水器等の備蓄品の購入
  6.  水害対策用の土嚢、止水板等の購入(ハザードマップで確認)、設置
  7.  感染症を想定したマスク、消毒液等(ただし、医療行為や検査薬、検査サービス等は助成対象外)
  8.  BCPを補完するために実施する基幹システムの防災力強化のためのクラウド化

3.3助成率

助成率は、中小企業等は対象事業費の1/2以下、小規模企業者は2/3以下となります。緊急時用の自家発電機等、電力の確保のための機器として申請し採択された場合は4/5以下となります。

小規模企業者とは、中小企業基本法第2条第5項に規定されている「従業員20人以下(商業(卸売業・小売業)・サービス業は5人以下)の事業者等」を指します。

3.4助成金額

助成金額の上限は1,500万円、最低額は10万円からです。

これには⑧のクラウド化にかかる費用も含まれますが、クラウド化の助成上限額は450万円です。

例えば、小規模企業者が400万円の自家発電機(電力確保のための機器)、90万円のクラウド化を導入した場合は、

400万円×4/5 + 90万円×2/3 = 320万円 + 60万円 =380万円

の助成金が受けられます。

※記載情報は令和4年度の制度を基にしていますので、令和5年度に助成金に申請する際には最新の情報を確認してください。

4:申請の流れと準備

申請の流れと準備

BCP実践促進助成金は申請期間が限られているうえ、限られた期間内に事業を完了させる必要がありますので、計画的に活用しましょう。

4.1申請方法と必要な書類

助成金を申請するためには添付書類を含めて、申請書類が全て揃った段階で、電話にて予約を行います。予約した日時に申請書類一式を持って窓口で対面にて申請します。

申請に必要な書類

  • ○企業に関する資料・・・履歴事項証明書、納税証明書、営業の許認可資料等
  • ○導入する設備に関する資料・・・金額の根拠資料、導入設備の仕様が分かる資料、発注先の会社案内、工程表、設計図書類等

全部で18種類の書類が必要ですので、申請時には公社のHPを確認して不足がないように準備しましょう。

<公社申請案内HP>

https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/setsubijosei/bcp.html#boshu

4.2申請の時期

年度ごとに6月、10月、1月の3回の募集があり、それぞれの予約受付期間は5日程度です。その後10日程度の申請受付期間があり、2か月程度で交付決定されます。

予算と応募状況によっては早めに募集が締め切られる事もありますので注意が必要です。

4.3申請後の流れ

申請後、審査会を経て交付決定されたら、事業に着手します。事業の完了報告を提出したら検査を受けて助成金額が確定しますので、請求書を提出すると助成金が支払われます。

助成対象期間は交付決定から4か月程度と限られていますので、期間を過ぎて交付対象外とならないよう、設備の導入は計画的に進める必要があります。

4.4審査の内容

審査会では、申請資格、機器等を導入した場合の効果や必要性、BCPの内容、経営面(決算内容・企業概要)等の観点から総合的に判断されます。

BCPの内容と導入する機器等がマッチしているかをしっかり確認した上で申請を行う事がポイントです。

4.5申請に必要な準備

申請は「Jグランツ(国が提供する電子申請システム)」で受け付けることになります。Jグランツを利用するためには「GビズIDプライムアカウント」の取得が必要で、アカウントの発行には2週間ほどかかりますので、早めに準備しておきましょう。

5:まとめ

BCP実践促進助成金

ここでは、東京都が実施する制度として「BCP実践促進助成金」を紹介しましたが、他の都道府県や自治体でもBCP策定を支援する取組を行っている場所もありますので、県や市区町村のHP・窓口で是非確認してみると良いかもしれません。

BCP策定を行い災害に備えておくことで、企業活動への影響を最小限に留め、損失を抑えることができます。日々を送る上で、どんなに備えていても防げない災害もあるものです。企業の状況にあった有効なBCPを策定し、助成金を活用して効率的・有効的な災害への備えを行いましょう。