国や地方自治体から現金が支給される制度として、助成金、支援金、給付金などがあります。助成金、支援金、給付金のいずれの制度も、申請内容が支給要件に適合していれば返還の必要がないため、上手に活用していきたいものですが、それぞれの制度がよく似ていることから、違いがよくわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回の記事では、助成金・支援金・給付金それぞれの制度概要や違いについて解説しています。助成金・支援金・給付金の申請を検討している経営者の方、担当者の方は参考にしてください。

1 助成金・支援金・給付金とは

助成金・支援金・給付金とは

初めに、助成金・支援金・給付金それぞれの基本的な内容を見ていきましょう。

1-1 助成金の概要と代表例

助成金は、一定の目的の基に国または地方自治体から支給されるお金です。受給するためには、申請内容が、助成金の目的や支給要件に適合していることが必要ですが、受給したお金は返還の義務はありません。

補助金の場合は、目的や支給要件に適合していても審査を通過しなければ受給できませんが、助成金は、申請内容が目的や支給要件を満たしていれば、ほぼ貰うことができます。

助成金の種類は、①厚生労働省が雇用の安定や拡大を目的として所管する助成金、②経済産業省が企業の研究開発を支援するために所管する助成金、③その他地方自治体が所管する助成金に分けることができますが、この中で最も多くを占めるのが厚生労働省所管の助成金です。厚生労働省所管の助成金は、雇用保険料を財源としているため、雇用保険適用事業所でなければ受給することはできません。

・助成金の例

雇用調整助成金 厚生労働省が所管する助成金で、経済上の理由により事業活動を縮小せざるを得ない事業主が、労働者の雇用を維持するため、休業・教育訓練・出向などの雇用調整を実施する場合に支援する制度です。支給額は、休業手当の1/2、教育訓練を実施した場合の賃金相当額の1/2(1人1日あたり1,200円の加算あり)、出向元事業主の負担額の1/2となっています。
特定求職者雇用開発助成金 厚生労働省が所管する助成金で、その中の特定就職困難者コースは、高齢者・障害者などの就職困難者を継続して雇用する事業主に対して支援を行う制度です。支給額は、雇用労働者が高齢者や母子家庭の母の場合は50~60万円、障害者の場合は50~120万円となっています。

1-2 支援金・給付金の概要と代表例

支援金と給付金も、一定の目的の基に国または地方自治体から支給されるお金で、受給するためには、申請内容がそれぞれの目的や支給要件に適合していることが必要なことは、助成金の場合と同じです。

ただし、助成金が特定の政策目的のために制度化されているのに対し、支援金・給付金は、緊急事態に対応するために措置される例が多く見られます。なお、支援金と給付金には明確な区別はなく、どちらも、特定の理由で困った事業者や個人、世帯を支援するためにお金が支給される制度です。

・支援金の例

事業復活支援金 経済産業省が所管する支援金で、新型コロナウイルス感染症の影響で売上額が一定以上減少した事業者に対し、事業の継続または回復を支援するために支給する制度です。
支給額は、中小法人等は最大250万円、個人事業者等は最大50万円の範囲内で、売上げの減少額×5か月分となっています。
新型コロナウイルス感染症生活困窮者自立支援金 厚生労働省が所管する支援金で、緊急小口資金等の特例貸付を利用できない世帯や再貸付を不承認とされた生活困窮世帯等に対し、生活自立のための支援を行う制度です。
支給額は、1世帯につき月額6~10万円(支給期間3か月間)となっています。

・給付金の例

特別定額給付金 総務省が所管する給付金で、新型コロナウイルスの感染拡大により休業や休校の措置が講じられることを背景に、感染拡大防止に取り組みつつ家計への支援を行う制度です。
支給額は、全国民を対象に一律10万円となっています。

2 助成金・支援金・給付金の共通点

助成金・支援金・給付金の共通点

助成金・支援金・給付金の共通点を見ていきましょう。

2-1 申請しなければ貰えない

助成金・支援金・給付金の共通点は、いずれも申請しない限りお金を貰えないことです。

助成金・支援金・給付金では、それぞれ交付申請書が様式化されており、その申請書に必要事項を記入し、指定されたその他の書類を添付して、申請期限内に所管行政庁に提出することになっています。中には、添付書類の作成・準備に時間がかかるものもあるため、申請する場合は早めに準備を行うのが安全です。

2-2 返還する必要がない

助成金・支援金・給付金は、いずれも返還する必要がありません。融資制度では、借りたお金は後で返す必要がありますが、助成金・支援金・給付金は貰い放しでよい制度です。ただし、申請内容に誤りがある、または虚偽の内容で申請したなどの場合に、後でそのことが判明した時は、当然返還する義務を負います。

3 助成金・支援金・給付金の違い

助成金・支援金・給付金の違い

次に、助成金・支援金・給付金の違いを見ていきましょう。

3-1 目的の違い

助成金と支援金・給付金は、その制度目的が異なっています。助成金は、特定の政策を実現するという目的を持つ制度です。例えば、代表的な助成金に、厚生労働省所管のものと経済産業省所管のものとがあります。厚生労働省が所管する助成金は、「雇用の安定・雇用の拡大」という政策目的のために、その目的に沿う事業を行う企業や事業者に支援を行います。

また、経済産業省が所管する助成金は、「研究・開発の推進」という政策目的のために、その目的に沿う事業を行う企業や事業者に支援を行うわけです。

一方、支援金・給付金は、災害やテロ、経済変動や感染症拡大などの社会的な緊急時に国民を守るという目的を持つ制度です。そのため、支援金・給付金は、天災や社会情勢の変動により、経済的に困窮している国民に広く経済的な支援を行うことに利用されているのです。

3-2 支給要件の違い

助成金と支援金・給付金は、その制度目的が違うことから、支給要件も異なっています。助成金は、特定の政策を実現するという目的を有するため、その政策に沿う「事業の実施」を申請者に求めます。

雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動を縮小せざるを得ない事業主が、労働者をリストラするのではなく、休業・教育訓練・出向などの雇用調整によって、労働者の雇用を維持しながら乗り切ろうとすることを支援する制度です。そのため、支給要件として、休業・教育訓練・出向など「雇用調整の実施」が必要とされています。

また、特定求職者雇用開発助成金は、高齢者・障害者などの就職困難者を継続して雇用する事業主に対して支援を行う制度であることから、「対象労働者の継続雇用」が支給要件とされています。

それに対し、支援金・給付金では、助成金のように政策目的に沿う事業の実施を申請者に求めることはしません。支援金・給付金は、災害や社会情勢の変化から国民を守る制度であるため、申請者の置かれた現状が、支援金・給付金の支給目的の範囲内にあればよいのです。

例えば、申請者が経済的に困窮し、①事業の売上額が一定以上減少している、②世帯収入が困窮し、住民税非課税となっているなどが支給の要件となっています。

3-3 対象者の違い

助成金と支援金・給付金とでは、支給対象者にも違いがあります。助成金は特定の政策目的を持つことから、その政策目的に合致する事業を行う企業や事業者を支援する制度となっています。そのため、助成金の支給対象者は、企業や事業者となります。

一方、支援金・給付金は、災害や感染症蔓延などの緊急事態に広く国民を守る制度です。したがって、支援金・給付金は、企業や事業者のほか世帯や個人も広く支給対象にしています。

4 まとめ

助成金・支援金・給付金

助成金、支援金、給付金のいずれも特定の目的のもとに国または地方自治体から支給されるお金ですが、助成金は特定の政策を実現するために、また、支援金・給付金は災害や社会情勢の変化から国民を守るために制度化されたものです。助成金、支援金、給付金ともに、申請内容がそれぞれの目的や要件に適合していれば支給される制度であることから、それぞれの制度目的をよく理解した上で、上手に活用することが大切です。